その土曜日、7時58分

もう一本、公開中の映画。
「その土曜日、7時58分」。
原題は「BEFORE THE DEVIL KNOWS YOU'RE DEAD」。
監督はこの間書いたばかりの「評決」の巨匠シドニー・ルメット
八十歳を越えて、なお現役。素晴らしい。


不動産会社で経理を任されている兄。裕福そうに見えるが、
内実は不正な操作で金をごまかし続けていて、ばれる寸前。
その弟は妻と離婚して、娘の養育費、その家の家賃他で借金まみれ。
兄は弟に強盗をもちかける。しかも狙いは実家の宝石店。
保険に入っているから、誰も損はしないからと説得する兄に、
はじめは嫌がっていた弟も最後には同意する。
実行役を押しつけられた弟は、別の相棒を誘いこんだ。
ところが、びびる弟を車に残して、その相棒がひとり襲撃、
結局店にいた彼らの母親と相撃ちになってしまう……


大変な力作。
冒頭から結構どぎついシーンが続くが、基本的には重い映画。
妻を愛し、その願いを叶えたい兄、
娘のソフトボールや学芸会を見て応援する弟。
元々は、ごく普通の人達の転落劇が描かれる。
それぞれの欲望、あるいは生き方に正直であろうとして
必然のように金を追い求めるようになった人間の
哀しさ、愚かさ、そして醜さが画面いっぱいに出ていた。


そしてその中で、崩れていた、あるいは崩れていく家族関係が見えてくる。
父親が唯一、良心の代表のようにも見えるが
やはり息子、特に兄との関係に後悔をもっていたりする。
家族を中心に現代社会の闇の部分を描いていた。


時間が行ったり来たりして、普通なら混乱してしまうが、
さすがに巨匠の編集、全くそんなことは感じられなかった。
記憶に残るシーンも多く、演出も秀逸。
弟が約束した金を払えず、旅行に行けなくなったことをなじるその娘の台詞。
「友達に、親がダメ親父(ルーザーと発していた)とばれてしまう」
いやはや、強烈。


兄役は「カポーティ」のフィリップ・シーモア・ホフマン
弟役はイーサン・ホーク
父親はアルバート・フィニー
名優が揃い踏み。


巨匠に脱帽。。