譜めくりの女

古い映画やドラマの紹介が多すぎる、自分でも反省。
従って今日は、上映中と言うよりも、
本日封切り! フランス映画『譜めくりの女』
ほとんど予備知識なしで見たが、大当たり。
最後まで、とても楽しめた。


譜めくりと言うのは、ピアニストの横で、
演奏にあわせて楽譜をめくってあげる人のことである。
それなりに楽譜が読める人なら誰でもいいのかと思ったら大違い、
演奏の出来を左右するものであり、
個々のピアニストが信頼できる人でないと、務まらないらしい。


で、物語だが、冒頭、両親にとても愛されている少女が
ピアノの試験(入試らしきもの)を受ける。
出だしは上手く行ったのに、途中ある審査員の些細な行為から、
少女の演奏はがたがたになる。
そして十年くらい後だろうか、美しく成長した少女は、
ある弁護士事務所で実習を受け、信頼を勝ち得て、
その弁護士の子供の世話をすることになる。
そして、その弁護士の妻が、あの時の審査員であった。
審査員はピアニストとして活躍中であり、
女はそのピアニストの信用も得て、譜めくりをするようになる……


冒頭の試験のシーンがまず緊張感一杯であった。
全くの門外漢だが、ピアニストになるには、
きわめて若い頃(十才くらい)から
生き残り競争が始まっているようで、子供には過酷な世界に見えた。
審査員の面前で弾かねばならないプレッシャーと
元々芸術肌で繊細な子供が最高潮に緊張する場面での、
ちょっとした大人の行為とそれがもたらす悪影響。
何とも怖いシーンであった。
本人にとっては何でもない行為だが、それが人の一生を左右することがある。
そして本人はとっくに忘れても、相手は決して忘れていない。
才能の開花機会を奪われた少女の悔しさが、
その後どうなるかを期待させる。


ただ、この作品の最大の特徴は、
最初から最後まで、主人公の譜めくりの女の心情が一切語られないこと。
本人はもちろん他人の台詞にも、全く出てこない。
せめて主人公の表情に読み取れればいいのだが、
試験で失敗した時、涙を流すのが唯一感情が表に出るシーン。
以降、大人になってからの女は全くの無表情、又は明らかな作り顔。
両親に電話して、おきまりの会話をする時だけ、笑顔になるのみ。
まさにハードボイルドである。


説明が全く無いので、どこまでが故意で、どれが偶然かもはっきりせず、
観客も戸惑い、不安なままで、怖さ、緊張感をずっと持ったままになる。
このハードボイルド姉ちゃんが
じわじわとピアニストとその子供の心に入り込んでいく時も
更にその後、いよいよ……という時も
これはアドリブで今考えたことなのか、それとも以前からの計画なのか
いつも、はっきりしない。
最後までそんな調子で続いていくので、先を読ませない。
これ、すべてハードボイルドの賜である。
ラストも唸らされる。
予想されるような結末でなく、
独自のスマートなやり方で、自分流のけりをつける女。
格好イイ。


主人公を演じたデボラ・フランソワ
まだ二十歳そこそこだが、どえらい存在感。
楽しみです。


いわゆるフランス映画の雰囲気が好きな方
女性主人公もの、特にふたりの女性主人公ものが好きな方
心理サスペンス系の好きな方
ピアノを習っていたり、習った経験のある方
クラシック音楽好きな方(バイオリンとチェロも出ます)
巌窟王が好きな方
譜めくりをやったことのある方
おすすめします。


初日なのに、あまり混んでませんでした……
これから口コミで評判になればなと思う。
良い作品なんだから。